近年は、大鼓を打つ際和紙を固めて作った「指革」という指を保護する嵌めものと手のひらを保護する革製のあてを使用しまが、能楽に於いては戦後の半世紀少し前までは、素手で大鼓を打っていました。現在の能楽大鼓奏者の中で素手で打つ玄人は僅で、私の師匠の一人である葛野流大鼓方、故 瀬尾乃武先生(人間国宝)も六十才位までは素手で大鼓を打っておられました。
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私が十代から二十代の頃、京都では素手打ちが主流で、昭和三十年代に安福春雄先生が書かれた高安流大鼓入門書には「本来は素手で打つ」と表記されております。
戦前の能楽界を御存じだった先代の故 観世喜之先生や故 和泉元秀先生より「君が打つ大鼓の音は懐かしい」と、よく声を掛けて頂き励みになったことを思い出します。
しかし、三十代の頃一時、舞台が多忙になり、指皮を使用していた事がありますが、その後、改めて大鼓の成り立ちや、「調べ」について考察を深めるにつけ今では素手打ちに徹する事となりました。この素手打ちの伝承を絶やさぬように、弟子には素手打ちを実践させております。
なお、大倉流大鼓方師匠である故吉田太一郎先生は、指皮を使用されていましたが、素手打ちの調べの名残がある調子を奏でておられました。